松本「浜田には成功してほしいと思うし、失敗してほしいとも思う」
松本人志の著書『哲学』より引用
昔、記者会見で浜田が、「松本は俺の金づるや」といったことがある。その発言は、なかなかの名言だと思う。
それでいいと思うし、いまさらきれいごとをいうような関係でもないし。
あいつが何かで失敗したときは、僕も残念だけど、ざまあみろという気持ちもあるわけで。それは絶対にそういうものだから。
浜田には成功してほしいと思うし、失敗してほしいとも思うし。
それが正直な気持ちなのだ。
浜田とプライベートで遊ぶことは、今では全然ない。
あいつといっしょに遊ばなくなったのは、大阪で売れ出した頃だろうか。
今ではおたがいに、電話番号さえも知らない。浜田の家にも行ったことはない。
そんなことをいうとみんなびっくりするけど、本当なのだ。
僕のマネージャーですら、あいつの電話番号を知らないと思う。
漫才のコンビは仲が悪いとよくいわれるけれど、僕らの場合はちょっと違う。
仲が悪いわけではなくて、おたがいに知りすぎているからなのだ。なにせあいつと知り合ったのは、小学生の頃で、そっからこっちずーっと一緒なのである。
たしか初デートですらも、一緒だったように思う。
僕と僕の彼女とあいつとその相手の四人で、いわゆるダブルデートをしたのだ。
そんなわけで、なんていうか、おたがいの恥部まで知り尽くしているというか、何を考えているかまでよーくわかってしまう。
考えてみれば、家族よりも長くいるわけだからそれも仕方がないのだ。
家族以上におたがいを理解している二人が、電話番号も知らないなんておかしいという人もいるかもしれない。
大きなお世話だ。
いや、まじめな話、結局、しんどいのだと思う。
父親でも母親でも兄弟でもいいが、そこに自分のことを知りすぎている人間がいたら、友達や恋人とは喋りにくいものだ。
友達が家に遊びに来て、部屋で話していたら、母親がやって来たとする。
そしたら今までしてた話が急にできなくなってしまうみたいな、早う向こう行ってくれ、みたいな。そういう経験は誰にだってあると思う。
浜田は僕にとってそういう存在なのだ。
プライベートで僕が、誰でもいいが、たとえば山崎邦正と喋っているとする。
そこに浜田がいるだけで、もうなんか喋りにくいのだ。
浜田は昔っから僕のことを何もかも知っているわけだから、別に何をいうわけじゃなくても、『ふーん。松本ってそんなんやったっけ。ふーん』みたいな感じで話聞いてるに決まってるから。
やっぱりすごく恥ずかしいというか、ものすごく居心地がわるい。
それは、浜田も同じことなわけで。
というより、今ふと思いついたけど、浜田の方が僕よりそういう意識は強いんじゃないだろうか。いや、もう、強いに決まってる。
そりゃ浜田には浜田の言い分があるだろうけど、僕は基本的に昔とあんまり変わってないから。そして、浜田はずいぶん変わったから。
最近の友達とどんな顔して喋ってるのかわからないけど、そこに昔のあいつを知ってる僕がいたら、ものすごくやりにくいに決まっている。
浜田とは大阪で売れ始めた頃からあんまり遊ばなくなったといったけど、それは僕の方からというより、あいつの方から僕を避け始めたっていうのが大きいんじゃないだろうか。
かっこつけたくても、僕の前ではかっこつけられないのだ。
まあ、それはおたがい様なのだが。